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以東岳



 泡滝ダム、大鳥池、以東岳と辿る道は朝日連峰縦走の庄内側からの唯一の入り口である。登り口泡滝ダムから以東岳山頂まででも6時間を越える山旅であるから、しっかりした装備はもとより食糧、宿泊の準備も必要であろう。この地域の原始からの象徴、ブナ林に包まれて広くなだらかな道が続く。東大鳥川の渓谷に流れ込む幾筋もの沢を越え、冷水沢と本流七ツ滝沢の吊り橋を渡る頃本格的な登りとなる。ジグザグに折れる道々には苔むした岩から湧き出る美味しい水がある。そのたびに喉を潤して急坂を登り、平坦地に出て少し進むと美しい大鳥池湖畔に着く。
 大鳥池、周囲3.5km、湖面標高963m、最大水深65.8mの、静寂の中の湖は、とりまく三角峰、オツボ峰、以東岳、小法師山などの峰から落ちる東沢、中ノ沢、西沢の水を受けて満たされ、七ツ滝沢へ流れ出る高山湖である。
 かつて「藤の池」と称したこの池に、文化5年(1808)全行程2泊3日の詳細で絵を加えた旅程記録(鶴岡市郷土資料館蔵)があり、その後大正15年と昭和2年の2回にわたって調査が行われ、大鳥池の成因などが明らかになった。またこの池に棲息するイワナは湖の成り立ちに関わり、地形の形成過程で下流と隔絶され生き残った独特の陸封魚となった。「タキタロウ」と呼ぶ伝説の大イワナは神秘の湖に生まれることになった。
 大鳥池から以東岳に至るコースは、樹林帯の中の急登に始まり、三角峰で森林限界に達して山頂に迫る道と、湖を半周し以東岳直下から山頂まで一気に登りつめる直登の道がある。
 三角峰に抜けてオツボ峰に回る道はこれまでの苦闘を忘れさせる。標高差250mの起伏をのびやかに歩み大地と空のはざまを行く、風の道である。またオオバギボウシ、ヒメサユリ、日本のエーデルワイス・ヒナウスユキソウなどが咲くお花畑でもある。オツボ峰から先の尾根は次第に狭くなり、いくつかの小ピークを乗り越えて以東岳山頂となる。主峰大朝日岳に劣らぬ大展望を得、足下には静かに空を映す大鳥池が佇んでいる。




●渓流

●ブナ原生林
 庄内の山のほとんどに見る信仰や宗教、修験との深い関わりに比較して、朝日連峰の山々にはその跡が希薄である。しかし特記すべき歴史上の道「朝日軍道」は今なお人々の胸を躍らす逸話であろう。―「この軍道はいつ、誰がどのような目的で拓いたのか・・・・・・断片的な資料から、戦国時代の末期、上杉家の武将直江山城主兼続が米沢と庄内を結ぶ軍道としてつくらせた、とする説が定説」(朝日村史)とある。
 軍道は現在の荒沢ダム東の鱒淵から東に道をとり、高安山、茶畑山、そして以東岳に達してここから連峰の主脈を通って大朝日、御影森山、葉山、長井市草岡へと下る、実に80kmに及んでいる。
 「元来は幅九尺の軍用道路であったが今では所々に道形が残るだけである」。これを連峰縦走の草分けと見ることもできるが―「慶長3年ひと夏で切り拓いたと古文書では伝えており・・・」とあるから、正しく古びとの信じ難い荒技であって、語り継がれるべき夢でもある。


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