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  終章 

目が覚めた・・・・・・、暑さのせい、それとも頭痛。
テレビの上のデジタル時計が[AM:7:24]を表示していた。
たぶん毎度のことで後半は何も記憶には残っていないが3時頃まで飲んでいたのだろう?
とにかく、頭が痛い。
窓から差し込む夏の日差しも、二日酔いの体にはきつい。
リモコンでテレビをONにする。コマーシャルの画像、音楽がとても煩わしい。
そう思いながら、今日は・・・・・?
あっ、10時半でY子と待ち合わせの約束してたのか、とても今はそんな気持ちにはなれない。
風呂に入ってシャワーを浴びてみるか、起きようとして頭痛がドッとくる。もう深酒はやめようと
幾度思ったかしれない。
シャワーを浴びて、少しは気分も落ち着いたところでY子に連絡をした。
  
「もしもし、あ、俺だよ」
  
「何、どうしたの?」
  
「今日の予定、キャンセルしたいんだけど・・頭がとにかく痛いんだよ。いいかな?」
 
 「どうせそんなとこだと思ってた。まったく、もう・・・。夕べも遅かったんでしょう!
   そんな若くないんだだからね。じゃあ、美術館いつ行くの?」

  
「ああ、23日までやってるから次の土曜日に行こう、いい?」
  
「わかった」
  
「後で又連絡する、頭痛いから、もう切るよ」
  
「もう、いつも勝手なんだから」
携帯を切ったとたん、気分的にも少し楽になった。
とにかく何もしたくない、もう少し横になろうかな。
いつの間にか、眠りに入っていた。

目が覚めた・・・・・・、背中が汗にまみれている。外は、もう30度超えてるんだろうな。
時計に目をやった、11時を過ぎていた。
まだ、頭が少しクラクラするがアルコールはほとんど抜けたような気がする。
こんなに暑いんじゃ、涼みにお茶でも飲み行こうかと一人でつぶやく。
2度目のシャワーを浴びて汗を流し、車を走らせた。
目的地は、S市の大通りから少し中に入った少し暗めの茶店、店内は狭く
あまり人の出入りも多くはない。
一人でお茶する場所としては自分には合っていると思って時々利用している。
とにかく、その店の空間がとても好きである。
まっ、考えてみると二日酔いの時は、いつも行ってるのである。
PC雑誌を手に店のドアを開けた。
  
「いらっしゃい」
カウンターからマスターの声がした。
チョイと頭を下げた。
  
「今日も二日酔い?」
  
「ああ、少しだけどね」
軽く答えて椅子に腰を下ろした。
店の中は、クーラーが程良く利いてとても気持ちよい。
  
「あったかいコーヒーもらえるかな」
  
「あっ、少し腹減ってるから何でもいいから軽いもの作ってよ」
  
「はいよ」
返事が返ってきた。
待ってる間、PC雑誌に目を移し、そろそろ家のパソコンも買い換えようかなと
思ってるところへ
  
「おまちどうさん」
持ってきたのは、ナポリタンだった。
まっ、においはしてたけど・・・・・。
  
「おれ、二日酔いだぜ、軽いのって言ったのに」
 
 「こんな時は、栄養、体力つけなきゃいけないんだよ」
でも、アルコールが抜けたせいかとても、いい香りだ。
すべて腹の中に放り込んで冷水を片手に窓の外へ目を向けた。
視線を戻そうとしたその時、
 
 「あっ!!」
思わず声を出してしまった。
向こう通りを歩いてるのは、間違いなくY子であった。
すぐさま、携帯した。
Y子が立ち止まったのが見えた。
 
「もしもし、おれだよ」
 
「なに」
 
「なんで、そんなとこ歩いてるんだよ」
 
「エッ、どこからみてるの?、どこにいるのよ」
 
「えへへ、教えてあげようYちゃんの向かいにMっていう喫茶店があるだろう
   その中だよ、おいでよ」

 
「うん、わかった」
すぐに、話しながらこちらの方へ歩き出していた。
ドアが開いた。
 
「よっ、いらしゃいまし」
 
「なによ、いらっしゃいましじゃないでしょ、もう」
 
「何そんなにいらいらしてるんだ、昼飯食ったか?」
 
「まだよ」
 
「何食べる?」
 
「カレーある?それとアイスティーとね」
 「マスター、カレーあるかな?アイスティーとおねがい、それとコーヒーのおかわり」

 
「はいよ」
 
「ところで、何でこの辺あるいてんだよ」
 「まあ、ちょっとね・・・、あなたこそ何でここにいるの?でもちょうどよかった
   話したいことがあったから」

 
「なんだよ」
 
「ご飯食べてから話すよ、二日酔い、頭はなおったの?
   毎週、よくそんなに飲み歩いてるよ」

 
「別に、好きで飲んでるわけじゃないよ」
 
「嘘、好きで飲んでるんでしょう」
 
「ま、いろいろとあるんだよ」
その時、出来上がったカレーとアイスティーが運ばれてきた。
「おいしそう」と一言、言って黙々と食べ始めた。
 
「おいおい、もう少し色気のある食べ方したら、でも美味しそうだな」
 
「なによ、いまさら、食べたい?あ〜してごらん」
 
「何言ってんだよ、みっともない」
   それより、何だよ話したい事って?」

 「う〜ん・・・・・・、やっぱりどうしようかな・・・・」

Y子はスプーンを皿に置いて窓の外に視線を移した。
その横顔は、いつもとは違う感じがした。
もともと、整った顔立ちであるが、焦点のあわない視線で何かを見つめてる
横顔は、とても美を感じさせられる。
その美しさだけに惚れた訳じゃないのだが・・・・・・。
ここで、長い沈黙が訪れた。

 さて、この辺で簡単に紹介しておこう。
  私、A 、歳は三十路もそろそろ終着点が見えてきた。
  妻、子供を持つごく普通のサラリーマン。
  とっ、言うことは、Y子との関係は世間一般的には「不倫」になるのかな?。
  Y子、歳は私より2つ年下、バツイチ、子供はいない。
  離婚してから、もう9年になる。
  やや細身、顔立ちのくぼみがはっきりしていてなかなかの美貌である。

時刻は、午後1時30分を過ぎていた。
 
「ねえ、今日は時間とれるの?」
 
「あぁ、だいじょうぶだけど」
 
「どこか、ドライブに行こうよ、海は人でいっぱいだから
   高原なんてどう?行こうよ」

 
「うん、いいけど、Yちゃん、話って何だよ?」
 
「後で、早く行こうよ」
会計を済まし、急かされて車に乗り込んだ。
煮えたぎるような車の中、エアコンを全開にして直ぐさま走らせた。
Y子は、スカートをパタパタし始めた。顔に似合わず本当に色気がない。
 
「N高原でいい?」
 
「いいよ」
以前一度、Y子と行ったことがある高原だった。
ここから、北へ50kぐらいの所にある高原に向かった。
途中、Y子は、余り言葉を交わすことなく黙って
カセットから流れる中島みゆきの歌に耳を傾け、過ぎ去る景色に目を向けていた。
さすがにこの時期、北へ向かう国道は混雑していた。
所々に見える海水浴場は、最近の猛暑もあってとても賑わっていた。
 
「この分だと、着くのが3時半もなるかな?そうだ、高原からの
   夕日でも見てこようか?」

 
「そうだね」
と言っただけで、また黙り込んでしまった。
時々、話題を変えて問いかけるのだが、やはり生返事ばかりだった。
実は、とても気になっていた、茶店での「話したいことあったから」
たぶん彼女はそのことを考えてるのだろう、自分なりにそれは察していた。
会話も弾まないままに目的地に着いた。
途中の渋滞で時間は4時近くになっていた。
車から降りてみると少しの高地のせいか、時間的にもあってすこしは
暑さから逃れたような気がする。
 
「Aちゃん、ここのソフトクリーム美味しかったよね?食べない?」
 
「あぁ、いいね
丸太で作られたベンチに座り食べはじめた。
日もだいぶ傾き、ここから見える海がキラキラと輝いている。
 
「ねぇ、私を愛してる?」
 
「な、何だよ、いまさら」
 
「なんか変だよね、私たちの関係って」
 
「何がだよ」
いきなりのY子の言葉に動揺してしまった。
彼女の「話したいことがあったから」の始まりだった。

そして、Y子は、話し始めた。
 「やっぱり愛なのかなあ、恋じゃないことは確かなんだけど、今更恋してるなんて歳じゃないよね
  私思うんだけど恋すると愛するじゃ全然違うよね
  今更、Aちゃんと結婚しようなんて考えていないんだけど・・・・・・・・
  あなたに、離婚してなんてとっても言えないよね、あれ、言ちゃった
  前にも、一度言ったことがあったよね「私と結婚する気あるのって」
  あなたと、偶然に会ったとき私は、一瞬思ったのよ、テレビドラマじゃないけど
  この出会いは運命的な出会いかななんて、
  だってあの頃Aちゃんのこと、とっても好きだったもの・・・・、もしあなたと将来一緒にいられたら
  楽しい日々送ること出来るんじゃないかななんて考えていたんだよね
  Aちゃん、私のそんな思いに関係なく東京へ行ったじゃない
  あなたは、あなたで東京でいい人見つけて結婚しちゃったし
  私だって、いろいろと迷いあって結婚したんだけどやっぱりだめだった
  あなたのせいにするわけじゃないけど、いつもあなたのこと思ってたよ
  離婚して、しばらくしたら、あなたと偶然出会うんですもの、ビックリしちゃった
  Aちゃん全然変わってなかった、昔のままだった、とてもうれしかった
  それから、こんなつき合い始まったんだけど、始めはあなたに2度の恋をしてた
  月日がたつにしれて、その恋は、愛に変わってきてるかなって感じてきたの
  Aちゃんとも何度も喧嘩してたよね、そばにいるのに言葉を交わさないとか・・・
  いろいろあったけど、あなたが側にいることが何の違和感もなくとても自然だった
  あんたが側にいるだけで本当に気持ちが安らいでたのよね
  これが、愛なんだよね・・・・・・・・
  だから、私、Aちゃんをとても愛してる。
  数年間、ほんとうにありがとう、とても楽しかった・・・・・・・・・」
  
その時、一台の車が近づいてきた、男の顔はよく分からなかったけど
二人が座っているベンチの少し先で止まった。

 「わたし・・・、行っちゃうね長い間ほんとうにありがとう
  これからも、あなたを愛し続けていくわ」
 「じゃあね」

Y子は、立ち上がって車の方へ歩き始めた。
 
「Yちゃん」
Y子が振り向いた。Y子の目から涙が流れはじめていた。
私は、ポケットからアパートの鍵をY子に渡した。
 
「俺こそ、ありがとう・・・・・・」
これ以上言葉にならなかった。
Y子は車にむかった。
ドアが開いた。







遠くから女の声がする。
  
「ねえ、起きてる?」

目が覚めた・・・・・・・。
 



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BGM
【 曲 名 】深い悲しみ   Little Valley
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